大人へ憧れた幼少期
わたしは、町の小さな自転車屋でうまれ育った。
実家は代々、小さいながらに自転車などを扱っている商店を営んでいたといわれている。
幼い頃、もともと裕福ではない家庭だったわたしのおもちゃは、自転車のチューブと発電機。
いつもオイルで手を黒くして遊んでいた。
そして、1980年史上空前といわれたバイクブームが到来。父は自転車屋をオートバイ屋へと変えた。
それからは、お店も賑やかになった。そして、朝から晩まで多くのお客さんがお店を出入りする毎日だった。
夏になるとお客さんたちとバイクイベントに参加した。大人だけの中、子どもは私一人だった。
はじめてのキャンプ。夜、外から聞こえる大人たちの大きな話声で寝付けなかったのを覚えている。そして、テントの中で一人
「はやく大人になりたい。」
というあせりが芽生えていた。
私の胸をざわつかせた財布
中学生になった私は、バイクとファッション文化にのめりこんだ。それは自然の流れだった。
ある時、雑誌で隣町に古着屋があるという記事をみた。早速一人でバスを乗り継ぎ行ってみることに。
お店に到着すると、店内は雑誌で見た商品がズラリと並んでいた。ジーンズや革ジャン、ショーケースにはシルバーや革小物があった。
そして、私はショーケースの中にある、革財布を手に取った。革の匂いが印象的だった。そしてずっしりとした重量感は、今まで持っていたナイロンの財布とは別格だった。
しかし・・・・・
その高揚は一瞬にして消沈することに。
どれも14歳の私には、簡単に手が出る値段ではなかったのだ。
店内には当時流行した「Hジャングル」の音楽が流れていた。
それからというもの、あの革の匂いが脳裏にこびりついて学校の勉強も手につかなかった。でも、どうしても欲しい。そんな思いで実家を手伝い小遣いをコツコツためる日々が続いた。
数か月後、もう一度古着屋へ行き、やっとの思いでショーケースで見たあの「革財布」を手に入れた。うれしくて飛び上がる勢いだった。
しかし、その時、重大な事に気付いた・・・・・
それは、このうれしさを「共感できる仲間」がいなかったのだ・・・。