エピソード1

 

友との出会い

 

高校時代はバイトに明け暮れ、すべてアメカジに注ぎ込んだ。そして、次にバイクに心が動いた。

まだ、免許は無かったが、バイクの雑誌をむさぼるように読んだ。でもやはり、高校でもアメカジを共有できる仲間とは巡り合えなかった。

そして、高校を卒業後は、整備工になる道を選んだ。

 

卒業後、自動車整備学校へ。

整備学校では、機械の使い方を学んだ。そして構造はもちろん、デザインに至るまで学べる楽しい毎日だった。

 

 

そんな中、クラスメイトの内藤と出会った。内藤とはバイクとファッションの話で意気投合。

 

 

私に引けを取らないアメリカンカルチャーに熱い男だった。それからというもの、学校が終わるといつも二人で古着屋やバイク屋へ足を運んだ。

 

 

黒ずんだ財布との出会い

 

12月の薄暗くなった夕方。白い息を吐きながら内藤と私は、革財布を作っているお店にいた。
「ここなのかな??」二人で看板を見つけるも見当たらない。でも住所は合っている。

あたりを見渡すと琥珀色の灯りがみえる古い建物があった。中にはショーケースとカスタムした古い「オートバイ」が見えた。
店内に入ると私たちは、木製の古びたショーケースに並んだ革財布をみていた。

しばらくすると、店主さんが話しかけてきて愛用の「ミドルウォレット」を見せてくれた。

そのウォレットは、使い込んで古いものだとすぐにわかった。端にはしわが寄り、全体があめ色に変わった革に、こすれる部分は黒く艶が出ていた。毎日、使っているだろうその財布は、店主さんのポケットの形になり、手の平にぴったりと収まっている・・・。

「カッコいい」

そしてこの財布に特別な存在を感じざるを得なかった。

私は、初めてお財布をオーダーした。仕上がりは、1か月程とのこと。しかし、はじめてのオーダーで正直不安だった。
そして、約一か月後、電話したところ無事完成してるとの事。すぐに取りに行き、早速見せてもらった。

出来立てのウォレットは綺麗な生成り色。私の手の中にあるその無垢の革は、前に見せてもらった店主の数年使い込んだ黒く艶のある財布を想像できない。でもこれが、使い込んでいく内に手に馴染み味が出ていくのだろう。

私は、小さなアメリカを手に入れた気分だった。

 

クラフトマンの息に触れる

 

整備学校の卒業が近づいてきた。就職先を探していた時、ランドローバーの求人を目にしてすぐに応募した。ランドローバーは英国のSUV自動車メーカー。レンジローバー、ディスカバリーをはじめ、当時はローバーMINIも取り扱っていた。私は、ローバーの「ものづくりの姿勢」に共感していた。その熱意が届き、すぐに採用が決まる。
内藤はというと、愛知県の会社に就職が決まり卒業後すぐ、約400km離れた豊橋に引っ越すことになった。また、一人になってしまった。

ランドローバーに就職して6か月程したある時、工場長から「ローバーミニに乗ってみない??」と声を掛けられた。それは、いつも駐車場の片隅に眠っているボロボロのミニ。「自分で修理するなら乗っていいよ!」という話だった。それをきっかけに、96年式のミニ メイフィアを所有することになった。

それから、この動かないミニを毎晩毎晩、仕事終わりに約1か月かけレストアした。そして、ミニを修理していると細部までこだわりぬいた車だと気づいた。それは移動するだけのものでなく、遊び心もあり、なにより創作者の「愛」を感じることができたのだ。
そしてそれに、究極のクラフトマンシップを感じた。

 

財布との別れ

 

4月の天気のいいある休日、愛車のローバーミニでドライブをしていた。桜が咲くの気持ちの良い日だった。
しかし、事態は一変した。

「あれ?さっきまであった財布が無い。」

いつも後ろポケットに入れてたミドルウォレットが無い・・・。

一瞬、頭が真っ白になった。しばらくして冷静になって考えてみた。

おそらく、コンビニで珈琲を買い車の横で休んでいた時、車の屋根に財布を置いていたのを思い出した。
そして、財布を上に乗せたまま走ったのだった。

時すでに遅し、「ミドルウォレット」はどこかに振り落としてしまったようだ。

お気に入りの財布を落とし、ショックでその日は寝れなかった。

そして、次のお財布を考えた時・・・今度は自分で作ってみようと思った。
なぜならば、それは、車、バイク、ファッション、友人、「いつも中心に革財布」あったからだ。

 

師匠との出会い

 

さっそく隣町にあった皮革専門店を訪ねた。そこは、見たこともない量の皮革が所狭しと山積みになっていた。その隙間にはバイクの写真や革のベスト飾ってあった。部屋の中には革の匂いが漂っていた。好きな匂いだ。

そして、白髪の男性がこっちに歩いてきた。淡く綺麗なブルージーンズにシャツをしまい込む。見るからに職人の紳士だ。紳士は私にやさしく声をかけてくれた。

「革が欲しいのかい?」

財布のつくり方を知らない事を伝えると、革の事を一から教えてくれた。そして、素材の違いから、技術的な縫製まで惜しみなく教えてくれた。それから、私は自分の財布を作る為、気が遠くなるほど何回も試作を繰り返した。小さすぎたり、大きすぎたり、折りたためなかったりと失敗を繰り返し半ばあきらめかけていたころ、ようやく完成した。しっかりと、皮革店の紳士から学んだ秘伝の技術も封じ込めた。製作期間は、3か月。

ようやく出来上がったウォレットは、前ポケットに入る絶妙な「2つ折り財布」だった。

製作した二つ折り財布は、それからは毎日、仕事の時も、バイクの時も、車の時も、いつも「こいつ」をジーンズのポケットに詰め込んで歩いていた。

もう落とすことはないだろう。

 

私はやがて、埼玉県で「旅とオートバイ」がテーマのショップを一人で開店することになった。

続く・・・

 

エピソード3